着物って難しい~黒紋付事件は誰のせい?~

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タイトルの“黒紋付事件”って何?そんなの最近、ありました?と思われるでしょう。

これは私の周りで起きただけの、私達だけが「どうしよう!大変だ!」となった、小さな出来事です。

●両家母の礼装と言えば黒留袖

着物や婚礼に興味のない方は「え?そうなんだ」くらいに思われるでしょうが、現在の婚礼現場で、新郎新婦のお母様が着られるお着物と言えば、ほぼ、黒留袖です。

黒留袖というのは、黒いお着物の五ヵ所に家紋(“五つ紋”と言います)が入っていて、裾には染めや刺繍で、主に“吉祥柄”と呼ばれるおめでたい柄や格調高い模様が入っています。

さらに言えば、本来は長襦袢、比翼、着物と3枚重ねて着るところ、比翼は着物にくっついたように仕立てた“比翼仕立て”が主流です。

(洋服でも、トレーナーやニットの首や裾にシャツみたいなのが付いてて、1枚で着ても重ね着してるように見えるデザインがありますが、そんな感じですね)

ところが、先日あるお母様がお持ちになったお着物には、家紋は五ヵ所にあるものの、裾模様も比翼もなかったのです。

●これって、喪服…?

花嫁を担当していた私のところに、列席担当のヘアメイクさんが、血相を変えてやって来ました。

「お母様のお着物が、留袖じゃなく喪服なんです!」

長年、ブライダルをやって来て、初めての事態。

列席者のお着付け、ヘアメイクのお部屋に行ってみると、着付師さんも困り果てています。

「比翼がないだけなら、白い布などで比翼があるように見せることはできるんですけど…」とのこと。

比翼仕立ての留袖に慣れている方が、“本仕立て”や“本襲”などと呼ばれるお着物をお持ちになって、比翼の着物を忘れて来られることは時々あります。

(私も、母が私の結婚式に着ようと、祖母の本仕立ての留袖を用意していたときに、「母ー、これ長襦袢2枚入ってるよー」と言って「それは比翼!」と言われて初めて、着物と別になった比翼のことを知りました…その時点でも、婚礼の仕事をそれなりにやって来てたんですけど…思い出すと恥ずかしい)

お客様情報の漏洩になりかねないので、詳細は書きませんが、お母様には「喪服ですよ」とは言わず、「比翼がないので、代わりにお紐で衿のところだけ作りますね」とだけ言ってお着付しました。

その後、後追いにはなりましたが、着付師さんが色々調べてくれて、お母様がお持ちになったのは“黒紋付”であり“喪服”ではないことがわかりました。

●和装における“喪服”はない

…のだそうです。

現代では一般的に女性の和装の“喪服”とは、黒無地に五つ紋の着物、帯や小物も黒で統一されたものです。

それは“黒紋付”の着方のひとつであり、“喪服”ではなく“喪装”と呼ぶのが正しいようです。

着物というのは家紋の数で格の違いがあり、五つ紋の黒紋付は、第一礼装という最も格の高い着物です。

そこに黒い帯や小物を合わせて弔事に着るのはもちろん、比翼や錦の帯、白い帯揚げ、金銀の帯締めなどと合わせれば慶事にも着られるお着物なのです。

でも、今は比翼のない黒い着物は“喪服”と認識されることが多く、慶事に着る方はほとんどいらっしゃいません。

●それの何が問題なのか

もしかしたら、例えば新郎の母がそのお着物を着ていて、それを見た新婦の親族が「向こうのお母さん、お祝い事に喪服!なんて非常識!」と思ったら、親族の間に隙間を生みかねません。

じゃあ、どうすればいいのか。どうすればよかったのか。

私達が“黒紋付”の知識をきちんと持っていたら、「そんな風に思われるかもしれないけど、これは一番格の高い、第一礼装なんですよ」とお伝えしたでしょう。

せめてご両家の間だけでもその認識ができていれば、問題ないと思います。

それをお伝えできなかった私達が、勉強不足だったかもしれません。

ただ、上の例で言うと、喪服だと思ったご親族さまが、モヤモヤしつつも何も言わなければ、ずっと違和感を抱いたままになります。

そんなことを考えていると、「呉服屋さんはお母様にどんな説明をしたんだろう?」と思います。

お母様は「呉服屋さんが“慶弔どちらも着れますよ”って言ってたんです」とは仰っていましたが、“喪服”と思われるリスクは伝えたのかな?

確かに格の高いお着物で、婚礼に着て良かったのですが、着付師さんも着付けを学んだ際、“喪服”と習ったそうです。

どうして業界内でも統一されていないのかな?

一説によると“黒留袖”は、娘時代に着ていた振袖の袖を、既婚者が着るように“留めた”もので、振袖の柄が残っており、それを“もうこの家の色以外に染まりません”という意味で黒く染めたのが“黒留袖”の始まりだそうです。

それって、“黒紋付”とは違うところから生まれてない?

だから“黒紋付=喪服”になるんじゃないの?

…と、疑問は尽きません。

●他の職業より着物との接点が多い私も悩んでしまうくらい、着物って難しい

別の着付師さんは「今、男の子も3歳で七五三をして、袴を着るでしょ?でも、元々5歳が“初めて袴を着けるお祝い”なんですよ。なら3歳で袴着ちゃ、ダメですよねぇ。子供写真スタジオなんかが“3歳児が袴着たら可愛いよねー”みたいに広げたのが良くない!」と仰っていました。

穿った見方をすれば、“慶事は黒留袖、弔事は黒紋付”が常識になったのも、着物業界の「1枚ですむところを、用途を分けて2枚売ろう!」という、戦略からかもしれません。

きっかけはともかくとして、そうやって伝統すら移ろっていく、おかげで世代間で常識にズレがある、というのは、より“着物って難しい”と思わせて、着物に対する拒否感を生むのではないでしょうか?

仕事で着物に関わるだけでなく、単なる着物好きの立場からも、民族衣装として伝統を守り、知識や常識が幅広く共有されると良いのにな、と思った出来事でした。

ヘアメイクだけじゃなく、
関連することも勉強しておかないといけませんね

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